大腸がん<薬物療法編>
さて、大腸がん薬物療法編です。
治療選択
- 大腸壁の浸潤の深さ(深達度)が粘膜(M)と粘膜下層(SM)にとどまるものを早期がん、粘膜下層より深く浸潤するものを進行がんという。
- 手術適応の場合は腸切除のみならず、リンパ節郭清も行う、ステージで郭清範囲は異なってくる。
※がん切除レベル
R0切除:手術にて肉眼のみならず、顕微鏡確認でも完全に腫瘍が切除された完全切除
R1切除:肉眼では完全に切除したが、顕微鏡確認で腫瘍が取りきれてなかった状態
R2切除:肉眼的に明らかに腫瘍が取り切れていない状態
術後化学療法
- R0切除された症例に、再発を抑制し予後を改善する目的で実施される。
- ガイドライン上の適応はStageⅢ大腸がんだが、再発リスクが高いと判断されるStageⅡ大腸がんにも実施が考慮される。
- 遠隔転移巣切除後の補助化学療法は、GL上ではエビデンスが乏しいものの行うことを弱く推奨している。
- 推奨レジメンはmFOLFOX6もしくはCAPOXであるが、オキサリプラチン使用が適切でない場合、5-FU+l-LV療法、UFT+l-LV療法、Capecitabine単独療法などフッ化ピリミジン系単独療法も選択しとなっている。
- いずれも投与期間は6か月が原則であるが、3カ月(vs6か月)でも非劣勢が示されており、オキサリプラチンの神経毒性軽減の有意性も示されている。再発低リスク群には検討可能である。術後4-8週間以内に開始する。
- 分子標的薬であるBV(Becacizumab)の上乗せ検証およびCetuximabの上乗せ検証をした試験のいずれにおいても有用性は認められず。
- 大腸がんの根治手術後のフォローアップは5年を目安とし、初めの3年間は3カ月ごと、残り2年は半年ごとのフォローアップ(問診、身体所見、腫瘍マーカー測定)が推奨される。
切除不能進行・再発大腸がんに対する化学療法
★一次治療
- (fit)患者とは、全身状態が良好で、かつ腫瘍臓器機能が保たれ、重篤な合併症もなく、一次治療のL-OHP、CPT-11や分子標的薬の併用や療法に対する忍容性に問題がない患者をいう。一方で、(vulnerable)患者とは、全身状態や腫瘍臓器等に問題があり、上記薬剤に対し忍容性がない患者をいう。(frail)患者は薬物療法に適応がない患者をいう。
- 一次治療は基本的に、L-OHPもしくはCPT-11のいずれか1剤とフッ化ピリミジン系を組み合わせた2剤(doublet)を軸に、そこに分子標的薬である血管新生阻害薬、抗EGFR抗体薬を組み合わせる療法が標準となっている。
- FOLFOX療法とFOLFIRI療法はどちらが先行しても効果は同等(奏効率、PFS、OSにおいて)と得られている。
- 抗EGFR抗体薬の効果予測因子として、RAS遺伝子やBRAF遺伝子の変異があり、負の因子として知られている。また、最近では原発部位も注目されており、左側結腸原発(下行結腸~直腸)ではBVよりも抗EGFR抗体薬の方が効果が高く、右側結腸原発(盲腸~横行結腸)ではBVよりも抗EGFR抗体薬の方が効果が乏しいことが分かっている。このことから、左側原発の場合は積極的に抗EGFR抗体薬を使用し、右側原発の場合はBVを使用していく。
★二次、三次治療
細胞傷害性抗がん薬
- 進行大腸がんにおいて、key drug3剤(フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチン)をどこかで使用した症例はOSが有意に延長することが報告されている。
- FOLFOX、FOLFIRIどちらを先行させても二次治療まで行えば成績は変わらないことが示されている。(一次二次でCPT-11ベースとL-OHPベースを入れ替える)。
併用する分子標的薬
血管新生阻害薬(BEV、RAM、AFL)、抗EGFR抗体(Cmab、Pmab)がある。
血管新生阻害薬
- 一次治療でL-OHP不応不耐例を対象としたプラセボとの試験で、FOLFIRI+RAM(RAISE試験)、FOLFIRI+AFL(VELOUR試験)のOSの優越性が証明されている。以上より、二次治療でFOLFIRIで併用できる。3種類の使い分けに有用なマーカーなどは確立されていない。
- 一次治療でのBV併用レジメンが不応になった場合に二次治療でもBVを継続することでOSが延長することが示されており、増悪後のBV継続使用(bevacizumab beyond progression;BBP)が行われる。
抗EGFR抗体薬
- RAS遺伝子野生型症例には、一次治療で抗EGFR抗体薬を使用してない場合、二次治療または三次治療で使用することが推奨される。
- RAS遺伝子野生型症例に対する三次治療において、抗EGFR抗体薬単剤とBSC(best supportive care)の比較試験の結果から、抗EGFR単独の方が有意にPFS、OSを改善することが示されている。
★後方治療
Regorafenib(REG)、FTD/TPI(TAS-102)
- 上記治療で不応または不耐の症例に対し、REGおよびFTD/TPIはOSおよびPFSを有意に延長することが証明されている。順番に関するデータはなく、毒性を考慮しながら個々の症例で使い分ける。
★レジメン選択のまとめ
◆一次治療はL-OHPまたはCPT-11のいずれかとフルオロピリミジン系を組み合わせたdoubletを軸とし、そこに患者背景に合わせて分子標的薬を組み合わせる。RAS遺伝子野生型で左側原発症例では抗EGFR抗体薬、RAS遺伝子野生型で右側原発症例では血管新生阻害薬を選択する。またRAS遺伝子変異型は原発部位に関わらずBEVが選択される。BRAF遺伝子変異の場合は、topiplet(FOLFOXIRI)+BEVが推奨される。
◆二次治療は、一次治療で使用してないL-OHPまたはCPT-11のいずれかとフルオロピリミジン系を組み合わせたdobletを軸とし、分子標的薬を組み合わせる、
◆三次治療以降は、経口薬であるREGもしくはFTD/TPIが選択肢となる。RAS遺伝子野生型では1,2次治療で抗EGFR抗体薬を使用してない場合はREG、FTD/TPIの前に抗EGFR抗体薬を使用することが推奨されている。
レジメンは次回。