腫瘍崩壊症候群(TLS)
概容
- Tumor Lysis Syndrome (TLS) は代謝異常である。
- 現在では早急な治療介入を要するオンコロジックエマージェンシー (oncologic emergency) のひとつとされている。
機序
- TLSは抗がん薬に感受性の高い腫瘍である造血器腫瘍や肺がんなどで発生しやすいとされている。
- TLSは、多様な原因でがん細胞が急速に死滅・崩壊した際に、細胞内のカリウム、リンおよび核酸等が大量に循環血液中に流入し、高負荷となることで発生する。
- 上記結果として、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、高サイトカイン血症および代謝性アシドーシスなどに至り、最終的に急性腎不全や心室性不整脈に至る。
- Laboratory TLS (LTLS)とClinical TLS (CTLS) の二つに分類される高尾tが多い。前者が検査値などで臨床症状は伴わないが代謝異常が検出される状態を指す。後者はLTLSに臨床症状が伴ったものを指す。
症状
1)抗尿酸血症
- 血清尿酸値が7mg/dLを超えると診断される。
- 腫瘍細胞から放出された核酸がプリン体に代謝され、ヒポキサンチン、キサンチンを経て最終的に尿酸となる。
- 腫瘍細胞の急速な死滅・崩壊により、過剰に尿酸が合成が行われ、排泄が間に合わなくなることで発現する。
- 高尿酸血症で尿pHが産生に傾いていると、尿酸が尿酸塩となりやすく、集合管で析出しやすくなり、その結果、尿細管閉塞が生じ、最終的に急性腎不全となる。
2)高カリウム血症
- 急速な腫瘍細胞の死滅・崩壊により、細胞内のカリウムが血中に放出されることで生じる。
- 腎不全自体が、高カリウム血症を助長するので、他の検査値の上昇も注意が必要となる。
- K≧5.5mEq/Lで、脱力、知覚異常、筋痙攣等の症状が現れるが、心毒性(致命的な心室細動や心室粗動)が現れるまでは無症状のことも多いので、検査値異常にはtっ唯が必要である。
3)高リン血症、低カルシウム血症
- 腫瘍細胞の急速な死滅・崩壊で大量のリンが血中に放出されることで起きる。
- 血中リンが尿中排泄を超える(血清PO4濃度が1.46mmol/L以上)と高リン血症と診断される。
- 血液中に増加したリンやリン酸イオンはカルシウムと結合し、リン酸カルシウムとなる。それが尿細管で析出すると急性腎不全の原因となる。
- リン酸カルシウムが析出するということは、二次的に低カルシウム血症を生じていることになる。
- がん患者は低アルブミン血症(4g/L未満)を呈していることも多く、イオン化カルシウムはアルブミン濃度によって大きく影響を受けるので、適宜補正が必要となる。
★補正カルシウム濃度(mg/dL)=実測カルシウム値(mg/dL)
+【4-血中アルブミン値(g/dL)】 - 高リン血症では、悪心、嘔吐、下痢、嗜眠、痙攣が臨床症状としてみられ、低カルシウム血症ではテタニー、不整脈、低血圧、痙攣が認められる。
テタニー:口唇、舌・手足のしびれ、トルソー徴候と呼ばれる手に現れる
特異的な屈曲、筋肉の痙攣・硬直を呈する。
4)高サイトカイン血症
- 腫瘍細胞の崩壊・死滅により大量のサイトカインが放出されて起こる。全身性炎症反応症候群 (systemic inflammatory response syndrome:SIRS) の状態となり、多臓器不全に至ることもある。
対応
1)リスク評価(低リスク、中間リスク、高リスク)
- 疾患、年齢、腫瘍量によりリスク分類を行う。腎機能、腎浸潤の有無によりTLSのリスク調整を行い、最終的なリスクを決定する。
- 血清クレアチニン値が基準値を超えている場合は1段階リスクを上げて調整を行う。また、治療前にバイタルサイン、体重、尿量、心電図、採血(尿酸値、リン酸、カリウム、カルシウム、クレアチニン、LDH)の結果から患者の状態を把握することも重要となる。
2)TLS予防
- 低リスク群(TLS発生率1%未満)では、治療開始から抗がん剤終了後24時間まで1日1回のモニタリング(採血検査、in/outバランス)、通常量の補液を行う。
- 中間リスク(TLS発生率1~5%)では、治療開始から抗がん剤終了後24時間まで8~12時間おきのモニタリング(採血検査、in/outバランス)、2.5~3L/m2/日の大量補液投与、アロプリノール(300㎎/m2/日 分3)もしくはフェブキソスタット(10~60mg/日 分1)の内服投与を行う。ただし、持続的に上昇する場合やTLS診断時にすでに高尿酸血症がみられる場合はラスブリカーゼ(0.2mg/kg/日 1日1回最大7日間)の投与を検討する。
- ラスブリカーゼは異種蛋白であり、期間をあけて再投与すると中和抗体が発生するので、初回投与時だけでなく、再投与時も過敏反応について注意が必要である。そのため、ラスブリカーゼ投与歴は必ず確認する。
- ラスブリカーゼ投与後の検体を室温に放置すると、ラスブリカーゼによる酵素反応が進行し、実際の尿酸値より低くなる可能性があるので、検体採取後は氷上で管理し、4時間以内に測定することが望ましい。
- 高リスク群(TLS発生率5%以上)は治療開始から抗がん薬投与24時間まで、4-6時間ごとの頻回モニタリング(採血検査、in/outバランス)、2.5~3L/m2/日の大量補液投与、ラスブリカーゼの投与を行う。
3)TLS治療
- 治療においては、TLS高リスクに準じた対応を行う。また、高カリウム血症や高リン血症等の電解質異常に対しては以下の表のように対応する。