悪性腫瘍総論⑥
~診断~
がん診断流れと検査
流れ | 検査目的 | 画像診断 | 病理診断 | 腫瘍マーカー | バイオマーカー |
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がんの診断 | ・がんであるか診断 ・がんの種類を決定 | 〇 | ● | △ | |
病期(ステージ)決定 | TMN分類などにより、がんの進行度を診断する | ● | |||
治療 | 薬物の効果や副作用発現を予測し、薬物を選択する | ● | |||
効果判定 | 腫瘍の大きさの変化などにより、治療の反応性を判断する | ● | 〇 | 〇 | |
経過観察 | 再発をより早期に発見する | ● | 〇 |
●主要検査 〇併用検査 △補助的な検査
- 消化器系や呼吸器系では”内視鏡検査”が重要な検査となる。
- 全身状態や副作用の有無の確認に血液、尿一般検査も行われる。
TMN分類・病気分類(ステージ)
因子 | 分類 | 解説 |
---|---|---|
T(原発腫瘍) | T0 | 原発主要なし |
T1~4 | 原発腫瘍の大きさや浸潤の程度で分類 | |
N(所属リンパ節転移※1) | N0 | リンパ節転移なし |
N1~3 | リンパ節転移あり(臓器ごとに個数や広がりで) | |
M(遠隔転移) | M0 | 遠隔転移なし |
M1 | 遠隔転移あり |
※1 臓器毎に原発巣から近い順に第1群、第2群・・・のように分類される。リンパ節転移であっても、所属リンパ節を超えた遠くのリンパ節に転移を認めた場合は遠隔転移として扱う。
例 | T1 | T2 | T3 | T4 | |
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M0 | N0 | Ⅰ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅱ |
N1 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | |
N2 | Ⅱ | Ⅲ | Ⅲ | Ⅲ | |
N3 | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅳ | |
M1 | Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ |
- ステージが低い場合は局所療法となるが、必要に応じて、全身療法、緩和医療となる。がんの種類によって分類は異なるので注意。
- 臓器によってはTis(上皮内がん)を設け、ステージ0とするものもある→大腸、乳房など
- 一般的に、遠隔転移を認めれば(M1)、ステージⅣとなる。
効果判定基準
イメージ | 判定 | 定義 |
---|---|---|
消えた | 完全奏功:CR(complete response) | 前標的病変の消失、リンパ節病変は短径10mm未満に縮小 |
小さくなった |
部分奏功: PR(partial response) |
ベースライン径和標的病変の径和が30%以上減少 |
変わらない |
安定: SD(stable disease) |
経過中の最小の径和に比して、PRに相当する縮小がなく、 PDに相当する増加がみられない |
大きくなった |
進行: PD(progressive disease) |
経過中の最小の径和に比して、標的窯変の径和が20%以上増加(絶対値でも5mm以上の増加) |
- がん薬物療法の効果判定に用いられる基準の1つに固形がんにおける効果判定基準(RECIST)がある。
- CTなどで病変測定し、治療効果を客観的に評価するものである。
- ベースライン評価を行う。標的病変の長径を合計し、ベースライン径和とする。(例:A長径+B長径)。リンパ節は短径でみる。1臓器につき5病変、最大10病変までをベースライン評価病変とし、その和をベースライン径和とする。
- 新たな病変が出現した場合はほかの病変が縮小していても判定はPDとなる。
- 個々の患者により、PDだからすぐ治療中止・変更といったわけでもなく、治療継続に関しては総合的な判断を要する。例えば、免疫チェックポイント阻害薬では、投与開始直後には病変が増大し、その後に縮小を認める例もある→pseudo prigressionという。
- 白血病の効果判定には、骨髄の組織学的所見に基づく形態学的完全緩解や、PCR法による分子生物学的完全緩解など、個別の判定基準がある。
パフォーマンス・ステータス(PS)
スコア | 定義 |
---|---|
0 | 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例として家事や事務作業 |
2 | 歩行可能で自分の周りのことはすべて可能だが作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。 |
3 | 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッド内で過ごす。 |
4 | 全く動けない。自分の身の回りのことが全くできない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
- PSが低い(スコアが高い)ことは予後が悪いと予測される。
- がん治療において、0~2が適応となり、PS3以上は副作用によるリスクが高くなるので適応とならない。
- ただし、PSはがん以外の疾患の影響もうけるので、PS以外も含めた総合的な判断が必要となる。
腫瘍マーカー
- 腫瘍マーカーとは、がん細胞により産生され、患者血液、尿から検出される蛋白質・ペプチド・糖鎖等の物質である。
- 診断精度は高くないので、病理学診断、画像診断に加えて補助的に用いることが多い。簡便に繰り返しできるという利点がある。
- がんの種類によって上昇するマーカーが異なる→がん診断、鑑別診断
- 手術により切除、または薬物療法により縮小すれば低下する⇒効果判定
- 再発すると再度上昇する⇒治療後の経過観察
代表的腫瘍マーカー
代表例 | 上昇する主ながん | 代表例 | 上昇する主ながん |
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CEA | 腺がん(肺、食道、胃、大腸、肝、胆道、膵、卵巣、子宮体、腎 等) | NSE | 小細胞肺がん、神経芽細胞腫、甲状腺髄様がん |
CA19-9 | 胃がん、大腸がん、肝がん、胆道がん、膵がん | Pro-GRP | 小細胞肺がん |
CA15-3 | 乳がん | AFP | 肝がん、精巣腫瘍、胃がん |
CA125 | 卵巣がん、膵がん | Span-1 | 胃がん、大腸がん、肝がん、胆道がん、膵がん |
NCC-ST-439 | 乳がん、胃がん 等 | DUPAN-2 | 胃がん、肝がん、胆道がん、膵がん |
SCC | 扁平上皮がん(食道、肺、子宮等) | PSA | 前立腺がん |
CYFRA | 非小細胞肺がん(扁平上皮がん) | hCG | 絨毛がん、卵巣がん、精巣腫瘍 |
※奏効率(RR)
抗がん薬の腫瘍縮小効果を示す指標で、CRとPRの患者の合計の割合である。
※病勢コントロール率(DCR)
CRとPRとSDの患者の合計の割合である。しかし、SDの状態が薬の効果でSDでおさまっているのかは薬同士の比較試験でなければわからない。
バイオマーカー
- 治療効果や安全性を予測する指標となるものである。分子マーカーとも呼ぶ。
- 治療効果を予測するものとして、がん細胞の遺伝子発現量や遺伝子変異や転座がある。
- 治療の安全性を予測するものとして、正常細胞における薬物代謝酵素の遺伝子多型などがあげられる。
- 最近は新薬の承認と同時にバイオマーカーの診断薬の承認を得るというプロセスが多い。そのような診断薬をコンパニオン診断薬と呼ぶ。
※ドライバー変異
がん化細胞には数十~数百個の遺伝子変異が蓄積しており、そのうち、特にがんの発生や進展に関与している遺伝子変異のことをドライバー変異という。治療対象になりやすい。その他の遺伝子変異はパッセンジャー変異と呼ばれる。
代表的なバイオマーカー
バイオマーカー例 | 対応薬物 | |
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がん 細胞 |
HER2 | トラスツマブ、トラスツマブ エムスタンシン、ペルツズマブ、ラパチニブ |
EGFR | ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ | |
RAS | セツキシマブ、パニツムマブ | |
KIT | イマチニブ | |
BCR-ABL(フィラデルフィア染色体) | イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ | |
EML4-ALK | クリゾチニブ、アレクチニブ | |
正常 細胞 |
UGT1A1 | イリノテカン |
毎日の記憶の更新が大変で困ってます。何か良い方法があれば教えてください。
では次回。