抗がん薬総論
がん治療で使用する薬
抗がん薬の分類
- 化学療法薬
代謝拮抗薬、白金製剤、アルキル化薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬 - 分子標的薬
抗体薬(例:抗EGFR抗体薬、抗HER2抗体薬など)、小分子薬(例:チロシンキナーゼ阻害薬、セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬など) - 免疫チェックポイント阻害薬
抗PD-1抗体薬、抗PD-L1抗体薬、抗CTLA-4抗体薬 - ホルモン治療薬
アロマターゼ阻害薬、抗エストロゲン薬(SERM、SERD)、抗アンドロゲン薬、プロゲストーゲン様作用薬、LHRH(GnRH)アゴニスト・アンタゴニスト
- 上記のほかにサイトカイン製剤(インターフェロン、インターロイキン)が腎がんに使用される。
- 酵素製剤(L-アスパラギナーゼ)、トレチノイン、ベキサロテン、サリドマイドが造血器腫瘍に対して使用されている。
化学療法薬と分子標的薬の比較
薬物療法
薬物療法とは
目的は根治と延命・症状緩和に分けられる。
- 多くの抗がん薬(特に化学療法薬)は分裂中の細胞に有効であえい、腫瘍中で増殖サイクルに入っている細胞の割合が多いほど効果が高い。
- 同じがんでも進行度により、治療の目的は変わる。例として埴土がんは早期には手術や放射線治療の補助として薬物用法が行われるが、病気が進むと、薬物治療の目的は延命・緩和となる。
目的ごとの薬物療法の考え方
- 抗がん剤は重大な副作用が出やすいので、そのリスクに見合ったベネフィットが期待できるかを考慮することが重要となる。
薬物療法の効果~増殖抑制?腫瘍縮小?~
- 最も効果を得られたら腫瘍の消失(根治)が得られることになる。また、そこまでの効果がなくても、自然経過よりも腫瘍の増殖を抑制できれば、延命や症状緩和効果が得られる。
- 従来からの化学療法薬は、腫瘍縮小効果が得られるかで薬効を判定する基準であった。一方、最近多くの薬が登場している分子標的薬の中には、明らかな腫瘍縮小効果がなくても、増殖抑制効果を示すものがある。このことから、分子標的薬の薬効は、画像診断による腫瘍縮小だけではなく、生存期間の延長などを指標に判定する必要がある。
補助薬物療法
- 外科治療は優れた局所療法であるが、手術時にすでに微小転移があった場合は再発をきたしてしまう。
- 手術時に存在する微小転移を消滅させがんを根治するために、手術に加えて行う薬物療法を補助薬物療法という。
- 上記には、術後補助薬物療法 (adjuvant chemotherapy) と術前補助薬物療法 (neoadjuvant chemotherapy) がある。
- 後者には、原発巣を縮小し、切除範囲を小さくする目的もある。これにより、隣接臓器の合併切除を回避できる(乳がんにおける乳房温存、咽頭がんや頸部食道がんにおける声帯温存、直腸がんにおける肛門温存等)。なお、原発縮小が目的の場合は術前化学放射線治療が有効な場合がある。
- 「術後補助薬物療法」は、乳がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、骨肉腫、膵がんで行われる。一方で、「術前補助薬物療法」は乳がん、食道がんで行われる。
- 微小転移は、大きな病巣に比べて薬物療法に対する感受性が高いので、通常は薬物療法への感受性が高くないとされるがん種でも自補助療法として有効性を示すことがある。
- 乳がんの場合、化学療法は術前、術後どちらでも予後は変わらないことが明らかになっている。
補助療法の適応
- 薬物療法を補助的に行う理由は微小転移を消失させることにある。したがって、真の適応は「微小転移があり、かつ薬物療法でそれを消失させることができる患者」ということになる。
- ただし、微小転移があるかどうかは診断できず、また、100%有効な薬物療法もないので、補助療法が本当の意味で有効な患者は実は少ないのかもしれない。
- 補助療法の真の有効性を高めるためには、微小転移がある可能性が高い患者を絞り込むことの重要性が高い。また、手術のみで治癒したであろう患者も本来不要な薬物療法を受ける可能性が高いということを念頭に入れる必要もある。
がんが治ったかどうかとは?
- がんが治ったかどうかは、がん細胞が体内に残っていた場合、多くは5年以内に検出可能な大きさとなり、再発と確認される。このため、多くのがんでは5年生存率が利用される(乳がんはゆっくり再発してくるものもあり、10年後に再発するものもある)。
- 手術後の「手術が成功した」はトラブルなく施工できた意味で、「がんを治せた」という意味ではない。手術で治せたかわかるのは5年後以降となるのである。
皆さん外出せず、自己研鑽に努めましょう。とはいってもこれが続くとしんどいですね。
ステロイド外用薬
ステロイドランク表
さて、ステロイド外用剤のランク分けですが、自分の良く扱うもの中心にどうぞ。
ステロイド外用薬の特徴
- 外用剤に使用されるステロイドホルモンは、体内で生成されるステロイドホルモンを人工的に合成して力価を強めたものである。
- 症状別に使用できるように、5段階のランクに分けられている。
- ステロイド内服薬では、しばしば高血圧や高血糖、胃粘膜過敏、骨粗しょう症等のリスク(副作用)がありますが、これは消化管で吸収され全身に波及するためである。一方で、外用薬は皮膚から吸収されるので、血液中に入る量は微量であり、上記のような全身性の副作用が起きることはまずない。
- 一般に、局所(皮膚)での副作用が起きることが多い。
①産毛が生える
②塗った場所にニキビができやすくなる
③塗り続けると血管が目立つことがある
④塗り続けると皮膚が薄くなることがある
⑤皮膚が薄くなりすぎて皮膚線条ができることがある
※①~④は使用量を減らしていくことで回復するが⑤は回復しない。
ステロイド軟膏とタクロリムス軟膏
ステロイドは色素沈着を起こす?
掲題のように言われるが全くの誤解である。一般に表皮にはメラニン色素がたくさんあり、紫外線を防いでくれる。しかし、アトピーのように炎症が長引くと、表皮が壊れてメラニン色素が真皮に落ちてしまう。真皮に落ちたメラニン色素は体外になかなか排泄できず、体内の貪食細胞が処理するのを待つしかありません。
皮膚炎がひどいほど、引っかいたりして真皮にメラニン色素が落ちることになる。貪食細胞の処理には律速があるので、真皮内のメラニン色素がその場所に沈着してしまい、皮膚が黒く見えてしまう。
つまり、ステロイド外用剤の仕様と色素沈着は無関係で、アトピー皮膚炎の炎症が強く、たくさん引っかいたりすることが原因である。また、炎症が強いときは、炎症の赤みで黒い色素沈着がはっきり見えないことが多く、ステロイド外用薬を使用し症状が改善してきた際に黒さが目立ってくるので、いかにもステロイド外用薬で黒くなったように勘違いされるのである。
つまり、色素沈着を起こさないためには、炎症☞かゆみ☞掻破を起こさないように、皮膚炎をあらかじめコントロールしていくことが重要なのです。
DP ( DTX+PSL ) 療法
スケジュール
※制吐対策☞デキサメタゾン6.6mg IV(day1)。IVは静脈注射の意。
- 基本的にはPD(増悪)になるまで継続する。日本では明確な基準はない。
- 3週間ごと(PSLは連日服用)
基本事項
適応
転移性・去勢抵抗性前立腺がん
☞ホルモン治療に抵抗を示した前立腺がんをかつては”ホルモン不応性前立腺がん”と呼んでいた。しかし、最近では、血清テストステロン値が去勢レベルに達しているが抗アンドロゲン剤単独ではコントロールできない段階があり、この段階を去勢抵抗性前立腺がん(castration-resistant prostate cancer:CRPC)と呼んでいる。
奏効率
副作用
チェックポイント
- 前投与の確認☞制吐剤や過敏反応、浮腫予防薬の処方など
- 投与量の確認
DTX
治療開始前の好中球が2000/mm3未満の時、投与延期
T-bil>ULNで投与中止、AST,ALT>1.5×ULNかつALP>2.5×ULNで投与中止
※米国添付文書より - 点滴速度の確認
DTX
250ml以上の生食または5%ブドウ糖液に溶解し、1時間以上で点滴静注 - アルコール過敏症の確認
DTX(タキソテール)の添付溶解液にはエタノールが含まれている。アルコール過敏がある場合、添付溶液は使用せず生食かブドウ糖液に溶解すること。ただし、ほかの商品(ジェネリック含む)により、すでにアルコールで溶解されたものやアルコールを含有しない液体製剤などが販売されており確認が必要である。
副作用対策と指導ポイント
- アルコールに関する問診
自動車の運転などの危険を伴う機械の操作に従事させない。 - アレルギー確認
DTX投与後数分以内に起こることがあるので、開始後1時間は頻回に顔面紅潮、血圧、脈拍数、動悸などnモニタリングを行う。 - 浮腫
DTXの総投与量が350-400mg/m2以上で高くなることが報告されており、1回最大投与量は米国では100mg/m2に制限されることもある。アレルギーや浮腫予防にデキサメタゾン8~16㎎/日を前日から3日間投与する方法が行われている。 - 脱毛
通常、DTX投与2~3週間に発現し、治療中止半年以降に回復することを伝える。 - WBC減少
WBC減少(好中球減少)は用量規制因子であり、頻回に血液検査を行う。また、十分な感染予防(手洗い、うがい、マスクなど)を奨励する。 - 相互作用
アゾール系抗真菌薬(ミコナゾールなど)、エリスロマイシン、クラリスロマシン、シクロスポリン、ミダゾラムの併用でCYP3A4阻害、DTXとの競合により、DTXの血中濃度が上昇し、副作用が強く表れることが考えられる。
放射線治療
放射線療法
- 放射線療法とは、がん細胞に放射線を照射し、がんを縮小・消失させる治療である。ただし、がん細胞だけに照射はできず正常細胞にも照射される。
- 放射線は、細胞内の水分子と反応して活性酸素(フリーラジカル)を発生させ、これがDNA障害することで細胞死が起こる。
放射線感受性
- 感受性は細胞。組織型によって異なる。
- 原則として、①増殖が速いほど感受性が高い②分化度が低いほど感受性が高い
(ベルゴニー・トリボンドーの法則 - Wikipedia)
根治照射
- 放射線療法を根治目的で実施することである。単独や薬物療法と併用する場合(化学放射線療法)がある。
- 感受性が高い部分では根治が期待しやすく、手術では侵襲が大きくなる部分や機能温存が重要な場合には有効である。
緩和照射(姑息照射)
感受性 | 代表的ながん |
---|---|
高い | 白血病、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍(セミノーマ) |
小細胞肺がん、扁平上皮がん | |
一部腺がん(乳房、子宮、前立腺、直腸など) | |
低い | 大部分の腺がん(胃、肺、すい臓等)、悪性黒色腫、肉腫、神経膠芽腫 等 |
放射線療法の副作用
- 治療中から治療後早期に認められる早期副作用と、治療後6か月以降に現れる晩期副作用がある。どちらも正常細胞にも照射されてしまうことで起きる。照射した部位に限局的に現れる。ただし、例外的に全身副作用として、放射線宿酔(食欲不振、悪心・嘔吐、倦怠感)がある。
- がん治療に利用できる一方で、発がん因子でもある。DNA損傷を受けながら死に至らなかった細胞が後にがん細胞となってしまう。
- 一般的に総線量を何日かに分けて分割照射するが、これは放射線照射した正常細胞を回復させつつ、がん細胞への損傷を蓄積させるためである。
- 正常細胞を避けて病変に放射線を集中させる方法として、定位放射線治療や強度変調放射線治療がある。
早期副作用 | 晩期副作用 | |
---|---|---|
組織 | 細胞の増殖が早い組織に発現しやすい。例:皮膚、粘膜、骨髄 | 増殖の遅い組織への損傷や血管損傷に関与している。 |
皮膚 | 皮膚炎、脱毛 | 皮膚潰瘍、萎縮、色素沈着 |
消化管 | 口内炎、食道炎、下痢 | 直腸出血、線維化による腸管閉塞、穿孔 |
骨髄 | 骨髄抑制 | 再生不良貧血、白血病 |
肺 | 放射線肺炎(間質性肺炎) | 肺線維症 |
眼 | 結膜炎、角膜炎 | 白内障、角膜潰瘍 |
脳・脊椎 | 脳浮腫、脳圧亢進 | 脳壊死、脊髄症、認知機能低下 |
泌尿器 | 膀胱炎、腎炎 | 膀胱委縮、腎硬化 |
骨 | 骨芽細胞減少 | 成長障害、骨折、骨壊死 |
外科治療
外科療法(手術療法)
- 遠隔転移がなく、局所病変がすべて切除可能な場合に、がんの根治目的で行われる。(根治手術)
- 遠隔転移があるなど、手術による根治が目指せない進行度のがんに対しても、がんそのものの治療は目的とせず、消化管閉塞に対する手術や症状緩和、QOL改善を目的に手術を行うこともある(姑息的手術)。
- 根治手術は、①がん浸潤の臓器の切除 ②リンパ節郭清 ③再建 で構成される。
①肉眼的な範囲を超えて浸潤している可能性を考慮し、がん病巣を含め正常細胞部分も切除する。
②リンパ節に転移した(可能性のある)がん細胞を除くため、リンパ節郭清を行う(リンパ節1つ1つを切除するのではなく、血管、脂肪組織とともに一括切除する)
③臓器切除に伴い生理的な構造を破壊してしまうので、食事や便などの通り道等を作り直す(消化管、尿管などの管腔臓器の場合)。 - 手術は切除可能な限局した進行度のがんには効果の高い治療法であるが、微小転移による遠隔転移再発を防ぐことはできない。このため、放射線療法や薬物療法との適切な組み合わせ等が研究され実施されている。
※センチネルリンパ節
- がんがリンパ管を通じて最初に流れ着くリンパ節をセンチネルリンパ節という。ちなみに「センチネル」とは”見張り役”という意味である。
- まず、センチネルリンパ節を切除し生検し、ここに転移があるかを確認することで、不要なリンパ節郭清を避けることができる。
- センチネルリンパ節への転移がない場合、これ以降への転移の可能性は低いと思われ、郭清省略も検討できる。
- 2群まで郭清する場合をD2郭清と呼ぶ。
- センチネルリンパ節生検が臨床応用されているがんとして、乳がん、悪性黒色腫がある。
治療総論
家にいる時間は子供との時間となっている今日この頃です。
良いことなんですが、勉強が進みません(笑)
治療の全体像
- ”外科療法”、”放射線療法”、”薬物療法”の3大療法が基本となる。複数を組み合わせることを”集学的治療”という。
- 先2つは局所療法、薬物療法は全身療法である。
- 治療開始から支持療法および緩和医療を適切に行うことも重要である。
- このほか、局所療法として内視鏡治療やインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)など、全身療法として免疫療法がある。
治療の目的
- ”根治””延命””緩和”の3つに大きく分けられる。進行度により決まってくることが多い。
- 目的が異なるので、治療の目的を明確にしておくことは重要である。根治を目指すのであれば、重篤な副作用を許容して治療を進める価値がある。一方でこんちが難しい場合はQOLを著しく低下させたり、生命の危機にさらすレベルの治療は意味がないことになる。
- 根治手術では、原発臓器別・病期別に、切除範囲やリンパ節郭清の範囲が標準化されている。(胃がんでの胃切除+D2郭清等)
- がんの根治は得られる見込みはないが、症状の緩和や延命効果を目的に行う手術を”姑息的手術”という、食物や便の通りを確保するバイパス手術、出血や周辺臓器への圧迫を回避するための病変切除、薬物療法や放射線療法の効果を高めるための減量手術等がある。
- 胃や腸などの内腔に体外から挿入された管のことを胃瘻・腸瘻という。